大判例

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札幌地方裁判所 平成元年(行ウ)15号 判決

原告

社団法人札幌自動車学園(X)

右代表者理事

熊野雄幸

右訴訟代理人弁護士

中島一郎

林信一

高田照市

横路民雄

田中正人

被告

北海道開発局長 小林豊明(Y)

右指定代理人

都築政則

館田孝廣

本田亘克

花井尚彦

小林力

安藤進

池田勝

岸辰郎

笹田昭博

三上佳恵

長谷川正

小葉松英明

被告参加人

札幌市(Z)

右代表者市長

桂信雄

右指定代理人

上野博久

下平尾文子

佐藤勉

平松克之

浅野清美

町田隆敏

茶屋隆司

主文

一  原告の別表(一)(1)ないし(11)の各処分の取消しを求める訴えを却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告の、原告に対する別表(一)(1)ないし(12)及び(二)記載の各処分はいずれもこれを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告及び被告参加人の本案前の申立て

1  原告の請求のうち、別表(一)(1)ないし(11)記載の各処分にかかる請求をいずれも却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  請求の趣旨に対する被告及び被告参加人の答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  事案の概要

本件は、豊平川の河川敷である札幌市中央区南六条東二丁目及び同区南七条西一丁目先の土地(以下「本件土地」という。)を自動車練習コースとして使用してきた原告による河川法二四条に基づく占用許可申請に対して被告のした不許可処分と被告のした同法七五条に基づく本件土地上の工作物の除却命令処分との取消しを求めた抗告訴訟である。

一  争いのない事実等

1  原告の地位、性格及び本件土地の占用状況等

原告は、昭和三七年六月一日、「教育基本法及び学校教育法に従い、私立各種学校を設立する」ことを目的として北海道知事から法人設立許可を受けて設立された社団法人であり、各種学校である自動車学校を経営している。

原告の前身となる団体が、昭和三七年一月三一日、道路交通法九八条(平成四年法律第四三号による改正前の規定。なお、右法律附則二条により、改正前の九八条一項による指定を受けた「指定自動車教習所」は、改正後の九九条一項の指定を受けた「指定自動車教習所」とみなすことになっている。)に基づき北海道公安委員会から指定自動車教習所の指定を受け、自動車運転者の資質の向上を図るため、自動車の運転に関する技能及び知識の教育を行ってきた。指定自動車教習所は、公安委員会が行うべき自動車運転免許事務の一部を公安委員会から事務委任され、自動車運転者の技能検定を行い、合格者は公安委員会の技能試験が免除される。

原告は、現在、一級河川豊平川の河川敷地である本件土地に自動車練習コースを設置して、生徒の自動車練習を行わせている。

2  本件土地の占用許可の経緯

原告の前身である札幌MC協会は、昭和二八年九月二一日、旧河川法(明治二九年法律第七一号)に基づき、当時の豊平川の河川管理者であった北海道知事から占用期間を昭和四一年三月三一日までとする占用許可処分を受けて、この間原告の前身である札幌MC協会、札幌自動車練習所及び札幌自動車学校並びに原告は、本件土地を占用してきた。

河川法(昭和三九年法律第一六九号)の施行により、河川管理者が被告となってからも、原告は、本件土地につき、被告から左記のとおり占用許可処分を受けた。(なお、原告は本件土地の面積を二万六六五一・九二平方メートルとするが、被告は二万六九八三・二一平方メートルであると主張する。)

許可年月日 占用の期間

(1) 昭和四一年 五月一〇日

同年四月一日から昭和四四年三月三一日

(2) 昭和四四年一一月 五日

同年四月一日から昭和四七年三月三一日

(3) 昭和四七年 八月 四日

同年四月一日から昭和五〇年三月三一日

(4) 昭和五〇年 四月 一日

右同日から昭和五〇年五月三一日

(5) 昭和五〇年 六月三〇日

同月一日から昭和五一年三月三一日(乙七)

3  不許可処分及び除却命令処分とこれに対する審査請求

原告は、河川法二四条に基づき、本件土地につき別表(一)(1)記載のとおり占用許可申請をしたが(なお、申請年月日は、甲一〇の1及び乙三一により昭和五一年三月五日と認める。)、被告は、同表記載のとおり、昭和五二年一〇月一日、河川管理上支障があるとの理由でこれを不許可処分(以下「本件(1)処分」という。)にした。河川管理上の支障とは、具体的には、(一) 低水路護岸工事及び高水敷整正工事を行う必要があること、(二) 右各工事完成後は引き続き被告参加人(以下「参加人」という。)の緑地公園用地として高水敷地全部が利用されることである。

原告は、その後も別表(一)(2)ないし(12)記載のとおり各占用許可申請をしたが(なお、(2)の申請年月日は、甲一〇の1により昭和五一年三月二八日と認める。)、被告は同表記載のとおり、これをいずれも不許可処分(以下、各処分を別表(一)記載の番号(2)等の番号をもって「本件(2)処分」等と表記し、本件(1)ないし(12)の各処分を一括して「本件不許可処分」と表記する。)とするとともに、別表(二)記載のとおり、本件土地上の左記の工作物の除却命令処分(以下「本件除却処分」といい、本件不許可処分及び本件除却処分を一括して「本件各処分」という。)をした。

〈1〉 生徒控室(廃バス) 四台

〈2〉 簡易便所 一基

〈3〉 照明灯(控杭二本) 六基

〈4〉 電柱 一本

〈5〉 信号機 四本

〈6〉 道路標識 三五本

〈7〉 塀 二ケ所

〈8〉 練習コース(縁石、アスファルト及び坂道コースを含む) 一式

そこで、原告は、本件(1)ないし(3)、(5)ないし(12)の各処分及び本件除却処分について、行政不服審査法に基づき、建設大臣に対し、右各処分の取り消しを求めて審査請求したが、昭和五八年二月一二日に本件(1)ないし(3)の各処分及び本件除却処分に対する各審査請求が、平成元年八月四日に本件(5)ないし(11)の各処分に対する各審査請求が、平成四年一一月一一日に本件(12)処分に対する審査請求が、いずれも棄却された。(なお、被告は、本件(12)処分につき、占用許可申請年月日を平成四年三月三一日、不許可年月日を同年三月三一日、不許可処分番号は石建管第二三三六号と主張する。)

4  通達等の存在

(一) 建設大臣の諮問を受けた河川審議会は、昭和四〇年一一月一〇日付けで、建設大臣に対し、河川敷地の占用について、原則的には他の占用を認めるべきではないが、社会経済上の必要があって占用許可をする場合には、「河川敷地占用許可準則」(以下「許可準則」という。別紙一)によることが適切である旨答申した。

(二) 建設事務次官は、右答申を受けて、同年一二月二三日付けで、各地方建設局長、被告及び各都道府県知事に対し、「河川敷地の占用許可について」と題する通達(建設省発河第一九九号、以下「事務次官通達」という。別紙二)を発した。

(三) そして、被告は、事務次官通達を受けて、昭和四一年四月一九日付けで、札幌を除く各開発建設部長宛に事務次官通達の運用に関する通達(北開局建第二六一号、以下「局長通達」という。)を発した。

二  争点

1  本件(1)ないし(11)の各処分に対する取消訴訟の適法性

(一) 被告の主張

被告は、以下のとおり、本件(1)ないし(11)の各処分の取消しを求める訴えが不適法であると主張した。

(1) 本件(1)ないし(11)の各処分の性質について

行政事件訴訟法九条は「法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処分又は裁決の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)」に限り、処分又は裁決の取消しの訴えを提起することができると定めているが、原告の請求のうち、本件(1)ないし(11)の各処分の取消しを求める部分については、原告が占用許可を申請した占用期間が既に経過しているばかりでなく、原告は現在に至るまで不法に占用を継続しているのであって、原告において何ら回復を求めるべき損害はなく、被告がした処分の取消しを求める利益はない。

(2) また、本件(4)処分の取消しを求める部分については、原告は、処分後行政不服審査法に基づく審査請求をしておらず、その出訴期間は、原告の占用許可申請に対する被告の右処分があったことを知った日からこれを起算すべきところ(行政事件訴訟法一四条一項)、原告が被告から右処分の送達を受けたのは、昭和五六年四月三日であり、本件訴訟は、右同日から三か月以上を経過し、しかも、処分の日から一年以上を経過した(同条三項)昭和五八年五月六日に提起されたことは本件記録上明らかであるから、この点からも不適法である。

(3) したがって、原告の請求のうち、本件(1)ないし(11)の各処分の取消しを求める訴えはいずれも不適法として却下されるべきである(なお、参加人も、本件(1)ないし(4)の各処分につき却下を申立て、右理由を援用する。)。

(二) 原告の反論

これに対し、原告は、以下のとおり、訴えの適法性を主張した。

(1) 本件不許可処分の性質からみた訴えの利益

本件不許可処分の性質は、形式的には新たな占用許可申請に対する不許可処分であるが、実質的には既存の占用権の承認に対する拒絶であって、従前の占用許可の取消しである。河川敷地占用許可申請ないし河川敷地占用許可処分については、通常その許可の終期(期限)が定められているが、占用権者が期限到来前に当該河川敷地占用許可の再申請をすると特別な理由がない限り許可(更新)される取扱いであり、占用者は継続的に占用することができる。

このことは、多くの河川敷地において、道路、橋、鉄橋、自動車練習場、ゴルフ場、運動場等多額の資金を投じて永続的に使用すべき設備を備える必要のある施設が設けられている現状からも明らかである。

ところで、原告が昭和二八年九月二一日付けで被告から得た占用許可は、その経営する自動車学校の「自動車練習コース設備」の設置を目的として与えられたから、右設置の趣旨からして、本件土地の占用が長期にわたること及び「自動車練習コース設備」がなければ原告が自動車学校を設立、存続させることができなくなることについて、被告は右占用許可をする当初から認識していたのであり、現に昭和四一年四月一日以降本件(1)(2)の各処分がされた昭和五二年一〇月一日まで、形式的に期限を定めるだけで、原告に本件土地の継続占用を認めてきた。

本件(1)処分の前にされた占用許可処分の占用期限(期間)は、原告の占用目的からして不当に短い期限であるが、このような期限は期限到来時に許可条件を改定する機会をもつための期限と考えるべきであり、期限の到来前に適法な更新申請がされている限り、当初与えられた占用許可が存続しているものと解すべきである。

したがって、期限の到来により直ちに占用権が喪失することはなく、占用権が従前のまま存続していると解すべきであるから、本件(1)ないし(11)の各処分はいずれも更新の拒絶であり、右拒絶を取り消すことにより、継続した占用が回復されるから、取消しを求める利益がある。

(2) 本件各処分の公定力からみた訴えの利益

また、行政行為には、いわゆる公定力が認められ、不服申立手続又は訴訟により、取り消されない限り適法性の推定を受けるから、本件各処分も取り消されない限り、本件各処分に反して継続してきた原告の占用は永久に不法ないし違法のそしりを免れ得ない。

そうすると、本件(1)ないし(11)の各処分後の将来の占用許可申請に対する不許可処分を審査請求して争う場合、本件(1)ないし(11)の各処分が取り消されねば、新規の占用許可申請に対する不許可処分として審査され、適法な継続的占用を前提とする場合に比して、拒否の裁量の範囲が広くなり不利益を被ることになる。

さらに、不許可処分に対し審査請求をし、その裁決をまって処分の取消しの訴えを提起しようとする場合、裁決が申請した占用期間経過後にされたときは、結局当該申請に対する不許可処分につき裁判所の実体的判断を得る機会を失うことになるから、申請にかかる占用期間の経過により訴えの利益を欠くという主張は失当である。

(3) 権利関係からみた訴えの利益

また、本件(1)ないし(11)の各処分が取消された場合、原告の占用は適法なものとして、河川法九六条、同法施行令四三条及び「道の区域内の建設大臣が管理する河川に係る流水占用料等に関する省令(昭和四〇年四月一日号外建設省令第一七号及び同四二年九月三〇日建設省令第二五号)に従った占用料若しくは延滞金が徴収されるのに対し、右各処分が維持された場合は、原告の占用は不法行為として損害賠償責任が発生し、国有地の継続的不法占拠として、昭和三三年蔵計第二八六二号の大蔵大臣から内閣総理大臣宛の通知等の定めるところに従い、不法占拠開始日から損害元本金の外これに対する一定割合による滞納金(遅延損害金)を徴収されることとなるから、右各処分が裁判所により取消されるか否かで、延滞金(遅延損害金)の算定起算日が大きく前後する結果、その金額に大幅な差異が生じるので、訴えの利益がある。

2  本件各処分は河川法七五条二項四号、五号に違反するか。

(一) 原告は、本件不許可処分には以下のとおり河川法七五条二項四号、五号に反する違法があり、これを前提とする本件除却処分にも違法があるから取り消されるべきであると指摘した。

(1) 本件不許可処分の性質

原告の前身である札幌MC協会は、前記第二、一2のとおり、昭和二八年九月、自動車練習コースの設置を目的として、本件土地の占用を開始したのであって、当初から相当期間の占用の継続が予定されており、許可処分庁もこのことを充分認識して原告に対し占用開始以来長期間にわたり、反復継続して占用許可を与えてきた。そうすると、原告に対する最後の占用許可の期間は昭和五〇年六月一日から翌年三月三一日までの一〇か月間であったが、かかる短期の許可期間は、期間満了により当然に原告の占用権を喪失させるのではなく、期限到来とともに許可条件を改正する機会をもつための期間であり、期限の到来前に適法な更新請求がされている限りは、占用許可が存続するものと解すべきである。したがって、本件不許可処分は、形式的には新たな占用許可申請に対する不許可処分だが、実質的には既存の占用権の更新請求に対する拒絶であって、従前の占用許可に対する取消処分ないしそれに準ずるものにほかならない。

右のとおり、本件不許可処分は継続した占用許可に対する取消処分ないしそれに準ずるものであるから、河川法七五条二項四号、五号が適用されるのであって、仮に、右各条項が直ちに適用されないとしても、前記更新の経緯に照らせば、本件不許可処分をするに当たっては、河川法七五条二項五号を準用し、公益上やむを得ない必要の存否を基準として判断されるべきである。

(2) そして、被告が本件各処分の理由として主張する低水路護岸工事及び高水敷整正工事を行う必要性が、河川法七五条二項四号の「河川工事のためやむを得ない必要があるとき。」に、また、右各工事完成後引き続き参加人の緑地公園用地として高水敷全部を利用することが同項五号の「前号に掲げる場合のほか、公益上やむを得ない必要があるとき。」にそれぞれ該当するかを判断するにあたっては、単に工事の必要性及び緑地公園の必要性だけではなく、既存の占用を排除してまで施行しなければならないほどの必要不可欠性及び緊急性までも認められる場合に、既存の占用の規模、期間、事業の公益性及び占用許可が得られないことによって生じる既存の占用に対する影響の程度など諸般の事情をも考慮しなければならない。そして、この「やむを得ない必要があるとき」に当たるか否かの判断は、客観的な経験則に基づきされるべきであって、占用許可の取消しは、現に国民が有している権利・利益を剥奪する行為であるから、覊束裁量行為である。

(3) そこで、右の「やむを得ない必要があるとき」にあたるかを検討する。〔略〕

(4) 以上のとおり、低水路の掘削を行うにしても、その近隣地を代替地として占用せしめることにより原告の占用と調和を図りつつ工事を施行することが十分容易であり、近傍で先例が存在するうえ、高水敷整正については、豊平川一九条橋下流の自然河川部分にも未施行区間があるうえ、本件についても右同様代替地占用による調和が十分可能であることにかんがみれば、既存の占用を排除してまで施行しなければならないほどの河川工事の必要不可欠性及び緊急性はない。原告の本件占用にかかる期間、規模、設備、事業の高度の公共性、本件各処分が是認された場合に生じることが明らかな免許取得予定者に対する著しい不利益、原告の従業員の失職による従業員及び従業員の家族の生活不安等を考慮すれば、本件工事には「やむを得ない」必要はない。

また、被告は、本件各処分の理由として、「河川工事完成後は引き続き参加人の緑地公園用地として高水式全部が利用されること」を掲げているが、右が河川法七五条二項五号の「公益上やむを得ない必要があるとき」といえるためには、前記同様単に工事の必要性があるのみならず、既存の占用を排除してまで施行しなければならないほどの河川工事の必要不可欠性及び緊急性の有無と共に、既存の占用の規模、期間、事業の公益性及び取り消しによって生じる既存の占用に対する影響の程度など諸般の事情を考慮すべきである。しかしながら、都市公園の設置は本来的に地方公共団体の権限で行われるべきことであって国の責務ではないこと、既存の占用者である原告と都市公園の事業主体の参加人との競合について具体的に調整を図るべきであるのに全くこれが行われていないこと、本件土地を公園用地としなければならない必然性はなく、現に同様に計画区域内の訴外北海道工業高等学校が河川法の占用許可を受けていること等を考慮すれば、必要不可欠性及び緊急性はいずれも認められない。また、本件土地を公園とした場合、水難事故及び交通事故の発生増加が懸念されるため、広く市民が利用することを予定されている公園としての機能も十分に発揮できない実情にあり、結局、公益上やむを得ない必要性がないばかりか、原告の事業の高度の公益性にかんがみれば、他の占用希望者に優先して原告の占用こそが確保されねばならないというべきである。

したがって、河川七五条二項四号ないし五号に反してされた本件不許可処分は違法であり、これを前提とした本件除却処分も違法であるから、いずれも取消しを免れない。

(二) これに対し、被告は、以下のとおり本件不許可処分の適法性を主張した。

(1) 本件不許可処分の性質

河川法二四条に規定する河川区域内の土地(以下「河川敷地」という。)の占用許可は、一定の申請に基づき公物管理権の作用として公共用物である河川敷地を使用する権利を設定する行政行為であり、一定の要件を備えた申請に対しても占用を許可するか否かは河川管理者の自由裁量に属する。

そうすると、もともと河川敷地は、河川管理施設と相まって雨水等の流路を形成し、洪水の際には安全にこれを疎通させ、洪水による被害を除却し又は軽減させるという重要な目的に供されるべき公共用物であり、本来一般公衆の自由な使用に供せられるべきものであるから、特定人に対し、本来の用法を超えて特別の使用権を設定する占用許可にあたっては、その占用期間についても右目的を阻害することのないよう必要最小限の期間を設定すべきである。

したがって、占用期間が占用目的に照らして極めて短期間であり、従前の占用の経緯やその実態、さらには右公共用物であることからの制約を考慮に入れてもなお占用権の存続期間として到底合理的な意味を持ち得ないような例外的事情の存するときには、原告の主張するように、占用期間は使用条件の改定を考慮するためのチェック期間であり、占用許可の更新の拒絶は許可の取り消しと同様の効果を持つと考えられる場合があるとしても、このような例外的な場合を除けば占用許可の定めは更新を予定するものではなく、当該占用許可に基づく占用権は右期間の満了をもって当然に消滅する。

ところで、原告の主張するとおり、本件各処分の直前の占用許可の期間は一〇か月間であり、その前の占用許可についても二か月間と短期間であるが、これらの占用許可は、原告において本件自動車練習コースの移転計画を検討するための期間であることを明示してされたものであるうえ、被告は右占用許可に先立ち、昭和四八年九月二七日、原告に対して移転計画等を検討されたい旨通知しており、さらに、その後も再三にわたり移転計画の検討を要請してきたところであるから、右二件の占用許可は移転計画を検討するための期間を設けるという目的からみて、十分合理的な期間である。

そして、被告が、右の占用期間を二か月とした許可処分の直前にした昭和四七年八月四日の占用許可処分の占用期間は三年間であり、自動車教習コースという占用の目的に照らせば、この期間は許可準則の第六「占用の許可の期間は、公園、緑地、運動場その他これに類する施設のためにする占用にあっては五年以内、その他の施設のためにする占用にあっては三年以内において当該河川の状況、当該占用の目的及び態様等を考慮して必要最小限度のものとしなければならない。」という基準に合致するのであり、占用許可の期間として合理性を有する。

また、原告がこれまでに占用した期間は占用開始から昭和五一年三月末までを通算すれば二二年余りにも及んでいる。

以上の事実に照らせば、原告による本件土地の占用は、被告が公共的ないし公益的な判断に基づき河川敷地を必要とする場合にはその占用許可期間の満了とともに返還すべき内在的制約を受けているところ、本件(1)処分までに、既に原告の占用目的を達成するのに十分な期間が経過しているから、本件土地を占用する権利は許可期間の満了により当然に消滅し、被告が原告に対し占用許可を与えなかったとしても、被告がした占用許可を取り消したことにはならない。そして、本件不許可処分は、河川法七五条二項四号、五号が予定するような占用許可に基づく有効な使用権を有するものに対し、公益上の必要からその占用期間中に占用許可を撤回して使用権を消滅させる場合や、使用権が全く予想外の短期間で消滅させられた場合には該当しないから、本件不許可処分をするにあたり、河川法七五条二項四号、五号の適用ないし準用はなく、右各号に定める要件を満たす必要はなく、「公益上やむを得ない必要」は、被告が本件不許可処分をするための要件ではないから、本件不許可処分は既存の占用権の更新拒絶であり、右処分にあたっては「公益上やむを得ない必要」を要するとの原告の指摘は失当であり、本件不許可処分にはこの点に違法はない。

(2) 仮に、本件不許可処分が、占用許可の取消しと同様の効果をもつ例外的場合にあたり、「公益上やむを得ない必要」が要件となるとしても、以下のとおり、河川工事は必要不可欠なものであり、また、札幌市都市計画緑地には高度の公益性が認められるのに対し、原告の主張する公益性はこれに劣るから、本件不許可処分には、公益上やむを得ない必要性があり適法である。

〔中略〕

以上のとおり、仮に、本件不許可処分をするにあたって、「公益上やむを得ない必要」を要するとしても、原告の前記(一)(3)以下の指摘はいずれも失当であって、原告による占用の継続は、本件河川工事に重大な支障を来し、かつ、豊平川緑地全体計画区域における公園の整備に重大な支障をもたらすものであって、被告の河川管理者としての本件土地を公園の用地として提供する責務を妨げるものであるから、原告の占用を許さないものとする本件不許可処分は適法であり、これを前提とする本件除却処分にも取消しうべき違法はない。

(三) 参加人の主張

(1) 都市計画緑地の必要性

参加人は、昭和四二年一〇月二〇日付け建設省告示第三六二四号による建設大臣の旧都市計画法に基づく豊平川緑地の都市計画の決定を受けた後、昭和四二年南大橋上下流区域における面積約二・一ヘクタールについて公園としての整備を行ったのを手始めとして、それ以後も公園として整備する段階で必要な河川敷地(護岸工事の終了した公園造成に適した状態となった河川敷地)の占用許可を受けながら、徐々に公園としての整備を行い、順次全体計画の整備を進めてきた。

(2) そして、参加人の都市計画緑地の妥当性、公益性は、ますます高まっている。

〔中略〕

(3) したがって、原告の占用する本件土地を一私法人の利益のためでなく、札幌市民全体の公共のために供しうる河川空間と一体化された美しい公園として整備することの公共性の高さは、とうてい自動車学園の練習コースの公共性の比ではないから、原告の占用許可申請に対して不許可とすることについて十分合理的な理由があるものというべきである。

そして、右のとおりに、従来からの豊平川緑地の整備に伴う知識経験のほかに幅広い意見を踏まえた報告が存し、公園としての整備事業を具体的に行うための基本的な資料等について十分な蓄積があるから、参加人としては、原告の占用が除去されればいつでもその整備を行うことができる。

3  本件不許可処分は憲法一四条に違反するか。

(一) 原告は、本件各処分には、以下のとおり、憲法一四条に反する違法があると指摘した。

河川法に基づく河川行政は、全国的視点に立って、公平、平等に行われるべきである。しかしながら、被告は、事務次官通達の下で、原告の本件各占用許可申請をいずれも不許可としながら、訴外北海道工業高等学校グランド及び別紙四記載の道内の指定自動車教習所については、河川敷地内の占用を継続して許可しており、また、道外においては、別紙三記載のゴルフ場等及び別紙四記載の道外の指定自動車教習所について、河川敷地の占用が継続して許可されている。殊に、緑地公園の最も少ない東京都の河川敷地においてすら、必ずしも公共性・公益性があるとはいえない巨人軍グランドやゴルフ場等の占用が許可されており、また、関東地方建設局は、昭和五〇年一二月、事務次官通達や許可準則を大幅に緩和して荒川、江戸川、利根川、鳥川、相模川等の河川敷地を占用しているゴルフ場二四か所につき、これらが都市計画区域内にあり、かつ、営利を目的とする株式会社の施設であるにもかかわらず、継続して占用を許可する方針をとっている(昭和五〇年一二月一日付建関水第五九三号)。さらに、別紙四の河川敷地に施設を設けている全国の指定自動車教習所四〇校のうち、河川敷地の占用が不許可とされたのは原告と訴外北日本自動車学園だけである。

したがって、本件不許可処分は、著しく合理性を欠く差別的処分であって、法の下の平等を定めた憲法一四条に違反し、これを前提とする本件除却処分も同様であるから、いずれも取消しを免れない。

(二) これに対し、被告は次のとおり本件各処分の適法性を主張した。

訴外北海道工業高等学校グランドについては、事務次官通達1項三号に掲げる「児童、生徒等が利用する運動場で学校教育法に規定する学校が設置し、管理するもの」に該当し、かつ、許可準則にも反しないので、占用を許可しているが、原告の本件占用は右通達において、許可しないこととされているから取扱を異にする。

原告の指摘する別紙三の河川の占用状況については、昭和四九年度からの多摩川河川敷地第二次開放により、一Aの占用は財団法人河川環境管理財団に、二Aの占用は株式会社よみうりランドから神奈川県知事に、それぞれ移管されている。二BないしDの各占用は、事務次官通達の発せられた当時、それぞれ占用面積が約三三ヘクタール、約三四ヘクタール、約七ヘクタールあったが、多摩川河川敷地第一次、第二次開放により、いずれも五・五ヘクタールまで大幅に縮小した。二Eの占用は、事務次官通達及び許可準則の対象外である(許可準則第二の2項)。一Bの占用は高度の公共性を有していることから占用が許可されていると考えられる。三Aと四Aの各占用は、事務次官通達の発せられた当時、それぞれ占用面積が約六六・四ヘクタール、約七一・七ヘクタールあったが、昭和四一年度からの荒川河川敷地第一次開放等により、それぞれ約三八・五ヘクタール、約四八・七ヘクタールに縮小した。五Aの占用は、総合運動場として、広く一般公衆の用に供されており、許可準則に適合するものである。

原告の指摘する別紙四の河川敷地を占用する自動車教習所については、北海道の欄に記載してある一三校に対して河川敷地の占用を許可していたが、これらはいずれも、事務次官通達が発せられる以前からの占用であったから、右通達6項の「既存の占用」に該当するものとして、被告は、昭和五二年当時は経過的に占用を許可していた。しかし、現在は原告と訴外北日本自動車学園の占用許可申請に対してはいずれも不許可処分にしており、旭川第一自動車学園、名寄自動車学校、空知自動車学校及び野付牛自動車学校については占用が廃止されたので、結局、被告が、現在、河川敷地の占用を許可しているのは七校であり、河川工事の計画又は都市計画緑地事業の計画が具体化した段階で占用を廃止する方針である。その他のものについては、能代自動車学校、茨城中央自動車学校、チサン自動車教習所及び高知自動車学校は河川敷地の占用許可を受けておらず、古川自動車専門学校は占用廃止になり、古谷自動車教習所、錦ヶ原自動車教習所、中京自動車学校及びCBC自動車学校は、練習場施設は民地にあり、電線、階段、通路等に使用する六ないし九〇平方メートルにつき河川敷地の占用許可されているに過ぎず、太陽自動車学校は昭和四七年五月に移転しており、こも野自動車学校は堤内地を占用しており、築館自動車学校及び佐沼自動車専門学校を除く一四校は、いずれも、事務次官通達が発せられる以前からの占用であったから、右通達6項の「既存の占用」に該当するものとして、経過的に占用を許可してきていると考えられる。

そうすると、河川管理者は、個々の占用許可にあたっては、河川の状況、周辺の土地利用の状況、公園等の公共的な占用許可の有無、占用を行う者の公共性等諸般の事情を総合的に考慮して占用の許否を判断しているのであり、当該処分が他の占用許可と取扱を異にしたとしても、憲法一四条に違反する合理性を欠く差別ということはできないから、本件不許可処分にはこの点に違法はなく適法であり、これを前提にした本件除却処分も同様に適法である。

4  本件各処分は憲法二九条一項、三項に違反するか。〔略〕

5  本件各処分には裁量権の範囲の逸脱ないし濫用があるか。〔略〕

第三  争点に対する判断

一  本件(1)ないし(11)の各処分に対する取消訴訟の適法性について(争点1)

1  原告は本件(1)ないし(11)の各処分の取消しを求める訴えにつき「法律上の利益」を有するか。

(一) 【要旨一】河川法二四条の定める河川区域内の土地の占用許可制度の目的

河川区域内の土地は、河川の治水の側面からは、河川管理施設と相まって、雨水等の流路を形成し、洪水を疎通させ、洪水による被害を除却・軽減させるためのものであり、河川の利水の側面からは、公共用物として本来一般公衆の自由な使用に供されるべきものであるから、原則として、その排他的な使用である占用を認めるべきではない。しかしながら、占用の目的・態様によっては、例えば、公園、広場等のように一般公衆の使用を増進する場合、ダム設置のように一般公衆の利用は妨げられるが、河川の流水によって生ずる公共の利益を増進するために必要な場合、橋の設置のように河川を離れた社会経済上の必要性に基づいて河川としては受け入れざるを得ない場合等には、例外的に占用を認める必要があるので、河川法二四条は、河川管理者が法に基づき河川管理権の作用として例外的に特定人のために河川区域内の土地を占用する権利を設定する行為を「許可」として定めているのである。

(二) 河川法二四条に基づく占用許可処分ないし不許可処分の性質

(1) そうすると、河川法二四条の占用許可処分は、本来一般公衆の自由な使用に供されるべき公共用物である河川敷地について、特定人に対し本来の用法を越えた排他的・独占的な使用権を設定するものであるから、占用を許可する期間は、公共用物としての前記の目的を阻害することのないよう、当該河川の状況、当該占用の目的・態様等を考慮して必要最小限度のものとしなければならない。したがって、それまで許可を受けていた者は、必要最小限度の占用期間が満了した時点で、さらに従前と同じ内容の許可を受けるべき旨を河川管理者に対して主張する地位を当然に有するものではない。

(2) しかし、許可の対象となった占用の目的である事業などの使用態様の性質等からみて、当初目指した占用の目的を達成するのに必要な最小限度の期間が予め定められることなく、右目的を達成することが到底困難なほど短期の期間を定められ、その期間が従前の占用の経緯等からみて公共用物であることによる内在的制約を考慮してもなお合理的理由を見出せない場合には、これを使用料その他の使用条件の改訂を考慮するために付された期限と解する余地があり、このような場合には、期間満了時に許可申請(その実質は更新申請である。)をしないか、許可申請に対して不許可処分(その実質は更新拒絶であり、従前の占用許可の撤回である。)がされないかぎり、当初の占用許可の効力は継続することとなる。 そうすると、不許可処分が実質的には占用許可の撤回になる場合には、原告は、本件(1)ないし(11)の各処分が取り消されれば占用許可を得ているのと同じ地位に復することになるから、回復すべき法律上の利益を有することとなる。

(三) 本件(1)ないし(11)の各処分の性質

そこで、本件(1)ないし(11)の各処分が、右(二)(2)のような場合にあたり、実質的には被告による従前の占用許可の撤回、すなわち原告にとっては更新拒絶と解しうるかにつき検討する。

(1) 前記第二の一の争いのない事実等に加え、〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

(a) 豊平川の位置づけについて

豊平川は、一級河川石狩川水系六大支川のうち最下流部に位置しており、流域面積は八九八・三平方キロメートルに及び、河川延長は七二・五キロメートルに達する主要幹川であって、小魚山にその源を発し豊平峡谷等の山間部、豊平川扇状地上に発展した道都札幌市の市街地中心部を通過して石狩川に合流している。

また、豊平川は、石狩川水系の各河川の中でも最も急流な河川であり、資産集積の極めて高い都市河川の中ではその規模、急峻さにおいて全国に類例のない河川であって、その河床の縦断形状は、石狩川合流点から一二・一キロメートル上流地点の苗穂鉄道橋を境としてその上流部が特に急勾配となっている。そのため、従前から豊平川においては改修工事がされてきた。

(b) 豊平川の改修工事について

河川法は、昭和四〇年四月一日から施行されたが、同法一六条、同法施行令一〇条によれば、河川管理者は、その管理する河川について、計画高水流量その他当該河川の河川工事の実施についての基本となるべき事項を定めた工事実施基本計画を水系ごとに立てておかなければならず、工事実施基本計画においては、(1)基本高水(洪水防御に関する計画の基本となる洪水のことをいう。)、(2)主要な地点における計画高水流量(基本高水をダム等の洪水調節施設により調節した後の河道の最大流量をいう。)、(3)計画横断形(計画高水流量の流水を流下させるために必要な河川の横断面の形状)、(4)計画高水位(計画横断形の河道断面が完成した場合において、計画高水流量が流下するときの水面の高さをいう。)等の事項を始め、河川の総合管理が確保できるように所要の事項を定めるものとされている。そして、河川法の施行後は、同法一六条に基づき、「石狩川水系工事実施基本計画」が策定され、これに基づいて河川改修工事が行われるようになった。右計画によれば、豊平川の基本高水のピーク流量は、明治三二年から昭和三七年までの水理水文資料を検討し、札幌における雨量資料を中心にして、基準地点である雁来観測所(石狩川合流地点から一一・一キロメートル地点)において毎秒二六五〇立方メートルとされ、計画高水流量は同地点で毎秒二〇〇〇立方メートルとされ、計画高水位は基準面を東京湾中等潮位として一一・七八メートルとされており、河川工事の内容としては、藻岩下、雁来、右岸東米里等の無堤部には堤防を新設するほか、有堤部においては堤防の嵩上げ、腹付けによる拡築を行うとともに、高水敷を掘削して河積の増大を図り、洪水の氾濫を防止し、急流河川対策として、床固めを設け、小衝部には護岸・水制を施工して、洪水の安全な流過を図ることとされている。

被告は、都市河川としては急流河川である豊平川の洪水による災害の発生を防止するため、右計画に基づいて、昭和四〇年度から、河道の床止め(河川の洗掘を防止し、河道の勾配を安定させ、河川の縦断又は横断形状を維持するために河川を横断して設けられる施設)、低水路の掘削・護岸、高水敷の掘削・整正、堤防の拡築・護岸等を実施する計画を立て、順次施工してきた。

ところで、本件土地を含む苗穂鉄道橋から藻岩上の橋(石狩川合流地点から二一キロメートル上流地点)までの間の市街地区間においては、特に流れが急峻であるため、低水路掘削・護岸、高水敷掘削・整正、堤防護岸等の工事を早期に実施する必要があった。特に、本件土地付近の堤防護岸は玉石コンクリート護岸となっておりその強度に問題があるうえ、老朽化しているので、早期に永久工法(法枠ブロック等を組み合わせ半永久的に耐用する構造)によって施工する必要があった。

そこで、被告は、本件土地につき、右各工事を実施する計画を策定したが、原告が本件土地を占用していたため、低水路掘削・護岸、高水敷掘削・整正、堤防護岸等の工事を直ちに施工することができなかった。

(c) 被告の対応について

昭和三九年七月一〇日、河川法が公布され、建設大臣の諮問を受けた河川審議会は、昭和四〇年一一月一〇日付けで、建設大臣に対し、河川敷地の占用について、原則的には他の占用を認めるべきではないが、社会経済上の必要があって占用許可をする場合には、許可準則(別紙一)によることが適切である旨答申し、右答申を受けて、国は、同年一二月二三日付けで、建設事務次官から各地方建設局長、被告及び各都道府県知事に対し、事務次官通達(別紙二)を発した。

河川敷地は、公共用物として、本来一般公衆の自由な使用に供すべきものであり、特定人の限定的な使用にのみ供すべきものではないことから、事務次官通達は、(1)占用許可の基本方針、(2)公共性の高い事業の計画との調整、(3)占用の方法、(4)占用の許可の期間及び許可の内容、(5)都市における河川の敷地占用の特例、(6)既存の占用に対する措置について規定しているが、右(1)の占用許可の基本方針として、〈1〉公園、緑地及び広場、〈2〉一般公衆の用に供する運動場(営利を目的とするものを除く。)、〈3〉児童、生徒等が利用する運動場で学校教育法に規定する学校が設置し、管理するもの、〈4〉採草放牧地その他これに類するもの、〈5〉その他営利を目的としない施設で、その占用の方法が河川管理に寄与するもののためにする占用以外の占用は許可しないものとし、許可準則とともに公衆の自由な使用を妨げないもの以外の占用は許可しないこととなった(事務次官通達1項、許可準則の第九)。また、右(6)の既存占用に対する措置として、事務次官通達6項(1)は、既存の占用のうち、許可準則に適合しないものについては、当該占用の実態、経緯等を勘案して、具体的な改善計画を樹立し、逐次許可準則に適合するように措置することとした。

そして、事務次官通達を受けて、被告から、札幌を除く各開発建設部長宛に事務次官通達の運用に関する昭和四一年四月一九日付け局長通達が発せられ、その中で、事務次官通達及び許可準則の取扱いを記した上で、事務次官通達の占用許可の基本方針に適合しない既存の占用の許可につき、特に「既存の占用の取扱い等について」と題する項を設け、自動車練習場等については、「(1)原則として、現許可期間の満了をまって許可関係を終了させるものとする。このため、更新を認めないことを、出来るだけ早期に予告して、円満な許可関係の終了を図ることとする。(2)許可の内容、経緯等から見て、(1)によることが困難なものについては、許可を受けた目的を達成するのに必要と認められる最小限度の期間、許可を継続するものとする。」とし、都市周辺の河川敷地について、「(1)(略)都市周辺の河川敷地は極力公園、緑地として開放することとする。(2)市町村の公園造成計画において利用を計画している河川敷地に他の占用が存する場合は公園造成工事の着工に計画を合せて、既存許可の解消を図るものとする。」としていた。

したがって、自動車練習コースの設置を目的とする河川敷地の占用は、許可の対象外となり、被告においては、事務次官通達及び許可準則に適合しない占用物件について、逐次その解消を図っていた。

(d) 公園緑地事業について

事務次官通達6項(2)は、「公園、緑地等が不足している都市又はその周辺の河川敷地については、地方公共団体の公園担当部局等と連絡を密にして、河川敷地の公園、緑地等への開放計画を樹立し、すみやかに、一般公衆の利用に供しうるよう措置するものとする。」とし、河川敷地の公園化を進める方針を立てた。そこで、豊平川については、昭和四二年一〇月二〇日付けで、旧都市計画法(大正八年法律第三六号)に基づき、本件土地を含む札幌市南区藻岩橋下藻岩橋下流地先から同市東区東雁来町地先までの豊平川河川敷地を札幌市都市計画緑地とする指定を受けた。当時参加人の人口は急増していたのに対し、その公園面積が少なかったため、豊平川の河川敷地について、昭和四六年度以降、被告において逐次高水敷整正工事を行った後、引き続き参加人の公園緑地事業が行われていた。本件土地に係る高水敷は、参加人の市街地中心部にあたり、市街地からの交通の便が良いため、参加人の右公園緑地事業の中核となる区域として計画されている箇所である。

(e) 本件(1)ないし(11)の各処分に至る経緯について

〈1〉 原告の前身にあたる札幌MC協会は、昭和二八年九月二一日、旧河川法(明治二九年法律第七一号)に基づき、当時の豊平川の河川管理者であった北海道知事から占用期間を昭和四一年三月三一日までとする占用許可処分を受けて、この間原告の前身である札幌MC協会、札幌自動車練習所及び札幌自動車学校並びに原告が、本件土地を占用してきた。

〈2〉 原告の前身である札幌自動車学校は、昭和三七年一月三一日、道路交通法の規定に基づき北海道公安委員会から指定自動車教習所の指定を受け、自動車運転者の資質の向上を図るため、自動車の運転に関する技能及び知識の教育を行ってきた。なお、指定自動車教習所は、公安委員会が行うべき自動車運転免許事務の一部を公安委員会から事務委任され、自動車運転者の技能検定を行い、合格者は公安委員会の技能試験が免除されている。

〈3〉 原告は、昭和三七年六月一日、「教育基本法及び学校教育法に従い、私立各種学校を設立する」ことを目的として北海道知事から社団法人として設立許可を受けて設立され、自動車学校を経営している。

〈4〉 河川法の施行により、河川管理者が被告となってからも、原告は、本件土地につき、被告から、昭和四一年五月一〇日に、同年四月一日から昭和四四年三月三一日までの間の、昭和四四年一一月五日に、同年四月一日から昭和四七年三月三一日までの間の、昭和四七年八月四日に、同年四月一日から昭和五〇年三月三一日までの間の、順次占用許可処分を受けた。

そして、原告は、現在に至るまで、本件土地に自動車練習コースを設置して、生徒の自動車練習を行わせている。

〈5〉 被告は、原告に対し、昭和四八年九月二七日付けの文書(石建管第一二八七号)で、本件土地について、「近く、高水敷整備、低水路護岸工事等の河川改修工事を行い、同工事完成後は札幌市の緑地公園計画があるので、占用期限である昭和五〇年三月三一日以降の占用は困難であるから、本件自動車練習コースの移転を検討するなど必要な措置を講じられたい。」との事前通告を行った。

〈6〉 さらに、被告は、昭和四九年三月一八日付けの文書(石建管第三六六六号)で、移転計画等の打合せをしたいので出席を要望する旨、原告に通知し、同月二五日の打合せの席上、原告に対し、移転計画を具体的に推進する等の必要な措置を講じるよう再度要請する旨の同日付けの文書(石建管第三六六六号)を交付したが、移転計画についての具体的な打合せはされなかった。

〈7〉 他方、原告も加盟する社団法人北海道指定自動車教習所協会は、昭和四九年一二月一二日、札幌市議会に継続占用を陳情し、同月一六日、札幌市議会は「治水事業と都市計画事業に支障のない限り」との文言を加えて、右陳情を採択し、参加人はこれを受けて、被告に対し要望書を対し提出した。また、右協会は、昭和五〇年三月一日付けで、北海道道議会に対しても右と同趣旨の請願をし、同月一一日付けで右請願は採択された。

〈8〉 原告は、移転計画について何ら検討することなく、昭和五〇年三月二七日付けで、昭和五〇年四月一日から昭和五三年三月三一日までの本件土地の占用許可を申請したので、被告は、昭和五〇年四月一日付けの文書(石建管第四六号)で、原告が自動車練習コースの移転計画を検討する期間として占用を許可すみこととし、昭和五〇年五月二〇日までに移転計画を提出するよう明示したうえで、同年四月一日から同年五月三一日までの二か月間に限って占用を許可した。

〈9〉 これを受けて、原告は、昭和五〇年五月一九日、移転計画策定につき、立地条件、必要な土地の取得、土地取得及び校舎建築の資金調達の問題があり、移転は困難であるから、豊平川改修工事には協力するが、継続して占用許可を求める旨の文書を被告に提出した。

〈10〉 そこで、被告は、原告に対し、昭和五〇年五月二九日付けの文書(石建管第七一七号)で、ⅰ本件土地の高水敷整備工事は昭和五二年度に着工すると、ⅱ本件土地は、右工事中は工事用地として、工事完成後は参加人の公園事業用地として、全部使用するので昭和五一年四月一日以降の占用許可はできないこと、ⅲ移転の準備期間として昭和五〇年度の占用を許可するとして、本件自動車練習コースの撤去について具体的措置を講ずるよう求め、その後、昭和五〇年六月三〇日付けで(石建管第一〇二三号)、昭和五〇年五月二九日付けの文書(石建管第七一七号)に基づき許可する旨の特別条件を付し、占用期間を昭和五〇年六月一日から昭和五一年三月三一日までの間の占用を許可した。

〈11〉 原告は、昭和五〇年七月二五日付けの文書で、被告の昭和五〇年五月二九日付けの文書につき、不服である旨被告に表明した。

これに対して、被告は、昭和五〇年一〇月二〇日付けの文書(石建管第二〇〇九号)で原告に宛てて、原告の占用は事務次官通達1項五号の「その他営利を目的としないもので、その占用の方法が河川管理に寄与するもの」に該当しないこと、同通達2項により公共性が高い都市公園事業のために原告の占用が調整されるのはやむを得ないこと、許可準則の第三では、河川敷地の占用が必要やむを得ないと認められるものについて占用許可できるが、原告の占用は事業の性質上必要やむを得ないものとは認められないことを通知した。

〈12〉 その後も原告は、移転計画を提出することなく、昭和五一年三月五日付けで本件(1)処分についての占用許可を申請したので、被告は、同年五月一七日付けの文書(石建管第五六五号)で、原告に対し、前記昭和五〇年五月二九日付けの文書(石建管第七一七号)の趣旨を伝えるとともに、昭和五一年五月三一日までに移転計画を文書で提出するように求めた。

〈13〉 これに対して、原告は、昭和五一年五月二七日付けの文書で、原告の占用は事務次官通達及び許可準則に適合するとして、本件(1)処分についての占用許可申請に対し占用を許可するように被告に求めた。

〈14〉 被告は、原告の右要求に対し、従前と同様の立場から、昭和五一年七月一五日付けの文書(石建管第一二四九号)で、昭和五一年八月一六日までに移転計画を提出するように原告に求めたが、原告は、昭和五一年八月一二日付けの文書で、再度本件(1)処分についての占用許可申請に対し占用を許可するよう求めた。

〈15〉 さらに、原告は、昭和五二年三月二八日付けで本件(2)処分についての占用許可を申請したところ、被告は、昭和五二年六月二七日に至り本件(1)(2)の各処分についての各占用許可申請につき処分を保留したまま、原告に対し、口頭で移転代替地につき次の内容の提案をした。

ⅰ 代替地は、本件「自動車練習コース設備」より五キロメートルないし六キロメートル下流の同じ豊平川河川敷地である。

ⅱ 提案代替地には採草地として使用している既占用者が存在している。

ⅲ 提案代替地に接続する堤内地付近は市街化調整区域である。

ⅳ 提案代替地には昭和六五年まで都市計画はない。

そして、昭和五二年六月二九日、右提案に関連して、被告は、原告に、次のような補足説明をした。

ⅰ 提案代替地に接続する堤内地付近は、市街化調整区域であるが、移転するのであれば、校舎の建設については参加人と調整を図り、許可されるようにしたい。

ⅱ 提案代替地内の既占用者とは当事者間で接触しないこと。

〈16〉 しかし、原告は、右代替地への移転を拒絶した。そこで、当時、本件土地について河川改修工事が可能な段階にあり、同工事終了後は参加人が都市公園の造成事業を実施できる状況に至っていたことから、被告は、再度移転先についての代替地を含む移転条件などの提案もせず、また、話し合いの機会を設定することなく、河川管理上支障があるとの理由で、昭和五二年一〇月一日、本件(1)(2)の各処分をした。

〈17〉 なお、被告は、本件土地に隣接する河川敷地を訴外北海道工業高等学校に対し、そのグラウンドとして占用許可をしていたが、右グラウンド付近の低水路護岸、高水敷整正等の工事は、同校の占用を順次制限しつつ行われた。

(2) 【要旨一】以上の諸事実によれば、まず、原告ないしその前身である団体は、本件土地を、自動車練習コースを設置する目的で、昭和二八年九月二一日に占用許可処分を得て以来、昭和五一年三月三一日までの約二二年間にわたり、順次占用許可処分を得て占用してきたものであるが、これを昭和三九年に河川法が改正されて被告が河川管理者になって以降についてみると、昭和四一年四月一日から昭和五〇年三月三一日までの間は、許可期間を三年間とする短期間の占用許可処分が繰り返されてきており、特に必要最小限の期間を定めて占用許可処分がされていたかは疑わしい。

しかし、その後、被告が原告に対して占用期間を昭和五〇年四月一日から同年五月三一日までの二か月間とする占用許可処分と占用期間を同年六月一日から昭和五一年三月三一日までの一〇か月間とする占用許可処分とにつき、その処分に至る経緯等をみると、前記のとおり、市街地区間における低水路掘削・護岸工事、高水敷掘削・整正工事等の施工の必要性が生じ、また、豊平川の河川敷地が札幌市都市計画緑地に指定され、本件土地の排他的使用を河川の治水と一般公衆による使用を増進する公園緑地事業のために排除する必要が生じたことから、被告は、昭和四八年九月二七日に至って、原告に対し、昭和五〇年三月三一日までの占用しか認めない旨を通知したうえで、移転検討期間を与えることを目的として期間を二か月間とする占用許可処分を、さらに移転準備期間を与えることを目的として期間を一〇か月間とする占用許可処分をしたものである。そうすると、右各処分にかかる占用期間はいずれも一年に満たない短いものであるが、自動車練習コースの設置という占用目的に照らして決して不十分であるとはいえない期間が既に経過しているうえ、移転検討期間及び移転準備期間として不合理なまでに短期ではなかったことに照らせば、これを使用料その他の使用条件の改訂を考慮するために付された期限と解する余地はなく、占用許可処分に基づく使用権は期間の満了した昭和五一年三月三一日をもって当然に消滅したものと解すべきである。

そうすると、本件(1)ないし(11)の各処分を取り消したとしても、従前の占用許可の効力が継続している状態に復することはなく、また、本件土地を現在に至るまで自動車練習コースとして占用している以上、本件(1)ないし(11)の各処分の申請にかかる期間が経過したことにより、いずれもその取消しを求める「法律上の利益」を失ったものであるから、原告の請求のうち、本件(1)ないし(11)の各処分の取消しを求める訴えは、いずれも不適法である。

2  本件(4)処分の取消訴訟は、出訴期間経過後に提起されたか。

原告は、本件(4)処分については、行政不服審査法に基づく審査請求をすることなく本件訴訟を提起しているから、その取消訴訟は、処分のあったことを知った日から三か月以内に提起しなければならず、また、処分の日から一年を経過したときは提起できない(行政事件訴訟法一四条一項、三項)。本件(4)処分は、昭和五六年四月一日にされたから、遅くとも同月中には原告は被告からその送達を受け、右処分のあったことを知ったものと推認される。そうすると、本件訴訟は、処分のあったことを知った日から三か月以上を経過し、かつ、処分の日から一年以上を経過した昭和五八年五月六日に提起されたことは本件記録上明らかであるから、出訴期間を経過して提起されたものである。

したがって、原告の請求のうち、本件(4)処分の取消しを求める訴えは、この点からいっても不適法である。

3  原告のその他の主張について

(一) 公定力からみた訴えの利益

原告は、行政行為にはいわゆる公定力が認められ、不服申立手続又は訴訟により、取り消されないかぎり適法であるとの推定を受けるから、本件(1)ないし(11)の各処分が存続する限り、これに反して継続してきた原告の占用は永久に不法、違法のそしりを免れず、将来の占用許可申請に対する判断の際、これを不利益に考慮されることがあり、また、裁判所の実体的判断を得る機会を失うことになるから、申請にかかる占用期間が経過したとしても原告の占用が適法であったことを訴えによって確定させる利益があると主張する。

しかし、原告の主張する不利益は、いずれも事実上のものにすぎず、年月の経過とともに順次占用許可の申請をしている原告としては、それに対する不許可処分の取消訴訟を提起し、その取消判決を得れば足りるのであり、また、単に本件(1)ないし(11)の各処分が違法であるか否かのみを確定することを目的として取消訴訟を提起することは許されないから、「法律上の利益」とははいえず、この点に関する原告の主張には理由がない。

(二) 権利関係からみた訴えの利益

原告は、本件(1)ないし(11)の各処分が維持された場合には、原告の占用は不法行為として損害賠償責任が発生し、これに対する延滞金(遅延損害金)の算定起算日が大きく異なる結果、その金額に大幅な差異が生じるとして、訴えの利益があると主張する。

しかし、これに対しては、被告からの右延滞金請求訴訟に応訴し、あるいは、別途債務不存在確認訴訟を提起して、右処分の違法性を主張して争うことが可能であるから、これをもって「法律上の利益」とはいえず、この点に関する原告の主張には理由がない。

4  以上のとおり、原告の請求のうち、本件(1)ないし(11)の各処分の取消しを求める訴えは、いずれも不適法であるから却下する。

二  本件(12)処分に、河川法七五条二項四号、五号に反する違法があるか(争点2)。

原告は、占用期間の満了により、当然に占用許可処分に基づく使用権が消滅するものではないので、本件不許可処分は占用期間の更新の拒絶であり、占用許可の取消しであるとして、被告が占用許可申請を不許可とするには河川法七五条二項四号、五号の適用ないし準用を受けて、「やむを得ない必要」がなければならず、これを欠く不許可処分は違法であると主張する。

しかしながら、前示のとおり、原告の占用許可処分に基づく本件土地の使用権は期間の満了した昭和五一年三月三一日をもって消滅したのであり、その後の占用許可申請に対する不許可処分を更新の拒絶ないし占用許可の取消しとみることはできない。

他方、【要旨二】原告がその適用ないし準用を主張する河川法七五条二項四号、五号は、現に効力を有する占用許可を、河川工事その他公益上やむを得ない必要が生じた場合等許可を受けている状態を継続させることが適当でないと認められるに至った新たな事由が発生したことを理由に取り消す等の処分をする場合につき定めている。

そうすると、占用許可処分が既に昭和五一年三月三一日をもって効力を失っている本件の場合には、右のやむを得ない必要が生じたか否かを検討するまでもなく、右規定の適用ないし準用の前提を欠くから、原告の主張には理由がない。

三  本件(12)処分に、憲法一四条に反する憲法があるか(争点3)。

1  原告は、本件不許可処分について、他の河川敷地における占用許可状況と比較すると公平、平等に行われておらず、憲法一四条に反する違法があると主張するので検討する。

2  当事者間に争いのない事実及び前記認定の事実に加え、〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

(一) 豊平川の河川改修工事について

(1) 豊平川河川改修工事は、石狩川水系工事実施基本計画に基づいて、工事が進められていたが、昭和五〇年八月と昭和五六年八月の二度にわたる計画規模に迫るほどの出水あるいは水系の一部の地域においてはこれを上回る大出水に遭遇したため、昭和五七年三月二五日、右計画が全面的に改定された。その際、基準地点における計画高水流量及び計画高水位は改定前のものと同一値とされ、本件土地付近における改修工事計画についても、改定前と同一内容とされた。

(2) 右改修工事は、下流における治水に配慮して、下流から上流に向かって工事が進められている。しかし、市街地区域においては、本件土地と訴外北日本自動車学園の占用する河川敷地部分だけが未施行のままになっている。なお、本件土地から約二キロメートル離れたところにある訴外北海道工業高等学校グラウンド及び約六〇〇メートル離れたところにあるゴルフ練習場は、遅くとも平成四年三月三一日までには撤去され、河川改修工事が行われた。

ところで、本件土地は、札幌市の中心部を背後に控えているうえ、本件土地に接する河川部分は急勾配であるため、本件土地の改修工事を未施行のまま放置することは、洪水時において低水路の川岸が洗堀されたり決壊するなどして堤防の安全を脅かすおそれがあり、治水の面からは看過できない。

また、本件土地より下流にある未施行部分は、その範囲が狭く、治水上の障害となることが少ないのに対し、本件土地は、計画高水位より〇・六ないし〇・八メートル高くその面積が広範囲に及ぶうえ、公安委員会から、指定自動車教習所の指定を受けるためには、自動車練習コース中の坂道コースが、〈1〉二以上の坂道を有すること、〈2〉幅は、七メートル以上であること、〈3〉勾配の起点から頂上までの高さは、一・五メートル以上であること、〈4〉勾配は、緩坂路において六・五パーセントから九・〇パーセントまで、急坂路において一〇・〇パーセントから一二・五パーセントまでであること、〈5〉頂上平坦部の長さは、四メートル以上であること、〈6〉舗装されていることという各要件を満たさねばならないところ(道路交通法九九条一項四号、同法施行令三五条四項一号ロ、同法施行規則三二条の三別表三)、このような坂道コースの存するまま放置して、高水敷掘削・整正工事が未了であれば、洪水の際、川の水の流れが乱れ、低水路の川岸の洗堀や浸食を助長し、ひいては堤防の洗堀を助長する可能性があることから、治水上の障害となる。

(3) 本件土地の工事については、低水路掘削・護岸工事や高水敷掘削・整正工事を分離して行うことは可能であるが、分離することにより、工事の費用を二割程増額する必要が生じる。

(二) 豊平川の河川敷地における参加人の公園緑地事業について

(1) 豊平川の河川敷地については、高水敷整正工事後は引き続き参加人の公園緑地事業が行われており、昭和五九年度までに約七〇ヘクタールが公園緑地化され、野球場・テニスコート等のスポーツ施設、芝生休憩所等の休憩施設、マラソン用の園路、サイクリングロード等の公園施設が建設され、市民のレクリエーションに資する設備として有効に利用されている。

ところで、河川敷地を公園にする場合は、河川敷地の治水工事終了後、その占用許可を受けるという後追い方式によっており、市自らが土地収用等をして公園化することはなく、従前の占用者に市から働きかけることもない。

(2) 公園整備の水準は、住民一人当たりの都市公園面積を基準としているが、都市公園法施行令では住民一人当たり六平方メートルを最低目標とすることとされているところ、さらに、建設省の通達である「緑のマスタープラン策定の推進について」では、都道府県知事宛に一人当たりの公園面積を最低二〇平方メートル以上とすることとされたため、現在は右数値目標を達成すべく公園整備事業が進められている。

参加人においては、昭和五八年度で住民一人当たりの公園面積は五・六四平方メートルとなっており、政令指定都市の中では三位に位置付けられている。その後、昭和六三年度末には一人当たり七・二平方メートルまで増加した。

(3) 参加人では、緑化推進条例を定め、緑の審議会を設置し、審議会の答申を受けて札幌市緑の基本計画を策定しているが、河川敷地の緑地は、参加人を縦横に貫く緑の軸線として活用できる空間であるため、公園緑地計画中緑のネットワーク作り(市内の公園を有機的に結び付けるものとして河川敷緑地や緑道、自転車道路等を配置し、災害時の避難時には、車両による危険のない避難路として役立てるとともに、日常的には近接した帯状の緑地として利用する計画)の上で重要な位置を占めている。豊平川の河川敷地は札幌市内を貫流し、緑のネットワーク作りの中核に位置づけられる。

(4) 豊平川の河川敷地の中で都市計画緑地の決定を受けた部分のうち、公園として整備されているのは高水敷として占用を受けている六一ヘクタールであり、苗穂鉄道橋から藻岩上の橋までの間で未整備なのは、本件土地、訴外北日本自動車学園の占用地、山鼻川との合流点上流部分のうち河川工事が行われていない部分及び上流のミュンヘン大橋付近のみである。そのうち公園として整備された場合、最も重要になるのは、都心部に近く交通等も便利であるがゆえに利用価値の高い、本件土地を含む南一条橋から藻岩橋までの区間である。

(5) 参加人が、本件土地を購入した場合には、二二五億円程度の費用を要することになるところ、現に、直近の公園整備計画においては、昭和六三年から平成四年までの新五か年計画で、三三〇ヘクタール(年間六六ヘクタール)の公園を造成するという計画が、地価高騰及び用地難により用地取得が困難になり、結局、昭和六三年度は四五ヘクタールの造成にとどまっている。

(6) 参加人は、本件土地の改修工事後直ちに公園設置に着手できる状態にある。

(三) 他の河川敷地の占用状況について

(1) 多摩川、荒川、江戸川の河川敷地の占用状況(別紙三)関係

〈1〉 巨人軍グラウンド(別紙三の一A)は、昭和四一年一〇月一二日から占用許可を受けて多摩川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定を受けており、多摩川河川敷第二次開放により開放され、昭和五二年一〇月一日から財団法人河川環境管理財団に移管された。二面ある野球場のうち、一面は巨人軍の使用しない日、他の一面は週三日それぞれ開放されている。

〈2〉 警視庁交通安全指導センター(別紙三の一B)は、昭和四三年一二月二八日から占用許可を受けて多摩川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定を受けている。占用者は地方公共団体の機関であり、公共性が高く、治水上支障がない。

〈3〉 川崎競馬競争馬訓練所(別紙三の二A)は、昭和四二年三月三一日から占用許可を受けて多摩川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定を受けており、多摩川河川敷第二次開放により準開放となり、昭和五三年四月一日から神奈川県知事移管された。週三日開放されている。

〈4〉 川崎パブリックゴルフ場(別紙三の二B)は、昭和二九年五月四日から占用許可を受けて多摩川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定を受けており、多摩川河川敷第一次、第二次開放により、占用許可面積が昭和五二年当時の一五五・〇六七平方メートルから現在五五・二五一平方メートルまで縮小した。

〈5〉 株式会社東急ゴルフ場(別紙三の二C)は、昭和四二年一二月二八日から占用許可を受けて多摩川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定を受けており、多摩川河川敷第二次開放により、占用許可面積が昭和五二年当時の一二八・一二〇平方メートルから現在五五・五一八平方メートルまで縮小した。

〈6〉 多摩川ゴルフコース(別紙三の二D)は、昭和三一年一〇月二〇日から占用許可を受けて多摩川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定を受けており、多摩川河川敷第二次開放により、占用許可面積が昭和五二年当時の五八・七二九平方メートルから現在五四・九八九平方メートルまで縮小した。

〈7〉 株式会社ラジオ関東送信塔(別紙三の二E)は、昭和四二年五月九日から占用許可を受けて多摩川の河川敷地を占用してきており、都市計画緑地としての決定を受けているが、公共放送に不可欠な施設であり、もともと工作物の新築に伴う占用許可であって、河川法二六条一項前段の許可であるから、そもそも申請者に権利を設定するものではない。

〈8〉 東京都民ゴルフ場(別紙三の三A)は、昭和三〇年九月五日から占用許可を受けて荒川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定を受けており、荒川河川敷地第一次開放等により、占用面積が約六六・四ヘクタールから約三八・五ヘクタールに縮小した。

〈9〉 赤羽ゴルフ場(別紙三の四A)は、昭和三二年一月二八日から占用許可を受けて荒川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定を受けており、荒川河川敷地第一次開放等により、占用面積が約七一・七ヘクタールから約四八・七ヘクタールに縮小した。

〈10〉 江戸川ラインゴルフクラブ(別紙三の五A)は、東京都が管理していた昭和三一年一一月一五日から占用許可を受けてゴルフ場として江戸川の河川敷地を占用してきた。昭和三七年に千葉県松戸市側に移設され、ゴルフ練習場を含む総合運動場(一般公衆の用に供する運動場である。)として、昭和四二年八月二八日に占用許可を受けて占用してきており、都市計画緑地としての決定を受け、河川改修工事の計画はあるが実施時期は未定である。

(2) 河川敷地使用教習所(別紙四)関係

〈1〉 北海道における河川敷地使用教習所

(a) 空知自動車学校は、昭和三八年四月一日から占用許可を受けて空知川の河川敷地を占用してきたが、昭和五七年一月二三日に占用を廃止した。

(b) 旭川自動車学校は、昭和三四年七月二五日から占用許可を受けて石狩川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定はなく、河川工事の計画もない。

(c) 深川自動車教習所は、昭和四〇年九月二一日から占用許可を受けて石狩川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定はなく、河川改修工事の計画はあるが実施時期は未定である。

(d) 北央自動車教習所は、昭和四〇年一月一日から占用許可を受けて美瑛川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定はなく、河川工事の計画もない。

(e) 旭川第一自動車学園は、昭和三八年一二月一日から占用許可を受けて石狩川の河川敷地を占用してきたが、昭和五二年三月三一日に占用を廃止した。

(f) 名寄自動車学校は、昭和四一年四月一日から占用許可を受けて名寄川の河川敷地を占用してきたが、昭和五九年九月三〇日に占用を廃止した。

(g) 富良野自動車教習所は、昭和四一年四月一日から占用許可を受けて空知川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定はなく、河川改修工事の計画はあるが具体化していない。

(h) 北見自動車学校は、昭和三五年一一月一一日から占用許可を受けて常呂川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定はなく、高水敷整備を行う計画はあるが具体化していない。

(i) 遠軽自動車学校は、昭和四〇年六月五日から占用許可を受けて湧別川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定はなく、高水敷整備を行う計画はあるが具体化していない。

(j) 美幌自動車学校は、昭和三八年四月一日から占用許可を受けて網走川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定はなく、高水敷整備を行う計画はあるが具体化していない。

(k) 野付牛自動車学校は、昭和四一年四月一日から占用許可を受けて無加川の河川敷地を占用してきたが、昭和五五年四月一七日に占用を廃止した。

〈2〉 宮域県における河川敷地使用教習所

(a) 花壇宮城自動車専門学校は、昭和三二年一〇月二三日から占用許可を受けて広瀬川の河川敷地を占用してきており、都市計画緑地としての決定は受けているが、河川工事の計画はない。

(b) 築館自動車学校は、昭和四二年四月一日から占用許可を受けて迫川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定はなく、河川工事の計画もない。

(c) 佐沼自動車専門学校は、昭和四八年一〇月一五日から占用許可を受けて迫川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定はなく、高水護岸工事の計画はあるが着手時期は未定である。

(d) 仙台赤門自動車専門学校は、昭和三六年七月二〇日から占用許可を受けて広瀬川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定はなく、河川工事の計画もない。

(e) 古川自動車専門学校は、昭和四〇年三月三一日から(それ以前は不明)占用許可を受けて江合川の河川敷地を占用してきたが、昭和五六年七月二二日に占用を廃止した。

〈3〉 秋田県における河川敷地使用教習所

能代自動車学校は、米代川の河川敷地中の民有地を使用してきたが、昭和五二年七月に移転した。

〈4〉 山形県における河川敷地使用教習所

(a) 山形自動車学校は、昭和三六年四月一日から占用許可を受けて馬見ケ崎川の河川敷地を占用してきており、都市計画緑地としての決定は受けているが、河川工事の計画はない。

(b) 太陽自動車学校は、昭和四七年五月八日から占用許可を受けて立谷川の河川敷地を占用してきており、都市計画緑地としての決定はなく、河川工事の計画もない。

〈5〉 栃木県における河川敷地使用教習所

(a) 足利自動車教習所は、昭和四〇年三月三一日から占用許可を受けて渡良瀬川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定を受けており、河川改修工事の計画もあるがいずれも着手年度が未定である。

(b) 鹿沼自動車教習所は、昭和三六年九月二一日から占用許可を受けて黒川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定はなく、河川工事の計画もない。

〈6〉 茨城県における河川敷地使用教習所

茨城中央自動車学校は、河川区域内にはない。

〈7〉 埼玉県における河川敷地使用教習所

(a) 埼玉自動車学校は、昭和三五年四月四日から占用許可を受けて荒川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定はなく、河川改修工事の計画はあるが具体化していない。

(b) チサン自動車教習所は、民有地にあり荒川の占用につき許可は問題にならない。

(c) 古谷自動車教習所は、コースが民有地にあり、電線の堤防埋設部分のみを、昭和三八年四月五日から占用許可を受けて占用している。

(d) 笹目自動車教習所は、昭和三八年六月二八日から占用許可を受けて荒川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定はない。

(e) 錦ケ原自動車教習所は、コースが民有地にあり、階段等の堤防埋設部分のみを、昭和四〇年三月三一日から占用許可を受けて占用している。

〈8〉 群馬県における河川敷地使用教習所

(a) 高崎自動車教習所は、昭和三五年七月二〇日から占用許可を受けて烏川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定はなく、河川改修工事の計画はあるが具体化していない。

(b) 大渡自動車学校は、昭和三九年六月一二日から占用許可を受けて利根川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定はなく、河川工事の計画もない。

〈9〉 神奈川県における河川敷地使用教習所

(a) 厚木自動車専門学校は、昭和三六年五月八日から占用許可を受けて相模川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定はなく、堤防築堤計画はあるが着手時期が未定である。

(b) 綱島自動車教習所は、昭和三九年一〇月二〇日から占用許可を受けて鶴見川の河川敷地を占用してきているが、教習所の敷地の内、官地は約四分の一であり、都市計画緑地としての決定はなく、平成一四年から低水路護岸工事に着手の予定がある。

〈10〉 愛知県における河川敷地使用教習所

(a) 中京自動車学校は、コースが民有地にあり、通路及び排水管部分(一八・七平方メートル)のみを、昭和五一年七月二九日(ただし、直轄管理になってからの許可年月日である。)から占用許可を受けて占用している。

(b) CBC自動車学校は、コースが民有地にあり、通路橋及び自転車置場部分(一五・四平方メートル)のみを、昭和四九年三月二五日(ただし、直轄管理になってからの許可年月日である。)から占用許可を受けて占用している。

(c) 庄内橋自動車学校は、昭和五〇年六月二〇日(ただし、直轄管理になってからの許可年月日である。)から占用許可を受けて庄内川の河川敷地を占用してきているが、民有地を含め利用しており、都市計画緑地としての決定を受け、工事実施基本計画はあるが具体的日程は決まっていない。

〈11〉 三重県における河川敷地使用教習所

こも野自動車学校は、昭和四六年四月一日から占用許可を受けて三滝川の河川敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定はなく、河川工事の計画もない。

〈12〉 滋賀県における河川敷地使用教習所

長浜自動車学校は、昭和三六年一〇月二六日から占用許可を受けて琵琶湖の湖沼敷地を占用してきているが、都市計画緑地としての決定を受けているが、河川工事の計画はない。

〈13〉 山口県における河川敷地使用教習所

岩国自動車学校は、昭和三〇年三月三一日から占用許可を受けて錦川の河川敷地を占用してきているが、自動車練習場の敷地の内、占用にかかる部分は約一五パーセントであり、都市計画緑地としての決定はなく、河川工事の計画もない。

〈14〉 高知県における河川敷地使用教習所

高知自動車学校は、民有地にあり鏡川の占用につき許可は問題にならない。

3(一)  そこで、まず、【要旨三】原告の事業について検討すると、指定自動車教習所はもともと自動車免許の取得を希望する者を対象とする施設であり、公安委員会からその指定を受けるにあたっては、設備面や講習内容等につき厳格な要件を満たし、その水準を維持することを求められていが、その反面、一般公衆に対して常時設備を開放すること、あるいは、使用面積を縮小すること等は、右要件の充足を維持し続けることを著しく困難にするものである。他方、既に判示したとおり(一1(一))、河川敷地は本来一般公衆の自由な使用に供されるべきものであるから、極めて例外的な場合にしか特定人に対する排他的な使用を認めべきではない。

そうすると、原告が多摩川、荒川、江戸川の河川敷地の占用状況(別紙三)にあげたものは、少なくとも自動車の免許取得希望者よりも広範な者を対象とする施設であり、警視庁交通安全指導センター及び株式会社ラジオ関東送信塔もその意味では一般公衆を対象とするものであり、また、公共性が高く、他の施設は規模の縮小を進めるか、あるいは、規則的に施設の全面的開放等を行って、一般公衆の自由な使用に供すべく措置が講じられているのに対し、原告の事業は、右のような意味での公共性を有するものでなく、規模の縮小や規則的な施設の全面的開放も行いえないのであるから、そもそもこれらと比較して平等か否かを検討する前提条件を欠いている。

(二)  次に、原告が占用許可を求めた本件土地については、全国に類例を見ない急峻な河川である豊平川の河川敷地であり、石狩川水系工事実施基本計画を立てて工事が進められていたが(一1(三)(1)(a)(b))、昭和五七年三月二五日には二度にわたる大出水のため右計画を見直し改定して、更に工事が進められてきており、現時点では市街地区では工事の未施行部分は本件土地と訴外北日本自動車学園の使用する河川敷地部分のみになっている。

また、本件土地については、昭和四二年一〇月二〇日付けで、都市計画緑地とする指定を受け、その後、本件土地を除く河川敷地部分については公園緑地事業が進められてきたのであり(一1(三)(1)(d))、本件土地と訴外北日本自動車学園の使用する河川敷地部分等が未整備となっており、参加人は改修工事後直ちに整備に着手できる状態にある。

これに対して、原告が河川敷地使用教習所(別紙四)としてあげた自動車教習所は、いずれも河川工事及び都市計画緑地の指定に基づく公園整備に直ちに着手しうるような河川敷地を占用しているものではないから、やはり、原告はこれらの自動車教習所と比較して平等か否かを検討する前提条件を欠いている。

(三)  さらに、訴外北海道工業高等学校グラウンド付近の河川改修工事時における、同校に対する被告の対応と、原告に対するそれには違いがあるが、高等学校と自動車教習所とは、その内容及び性格から学校教育法上、高等学校は「学校」として取り扱われており(同法一条)、自動車教習所については「一条に掲げるもの以外のもので、(略)各種学校」とされて、国民の教育要求に広くかつ自由に応じることのできる教育的施設の意義を制度として認めたうえで、「学校教育に類する教育を行う」ことから、これを放置しえないので、公的監督に服させるため同法の総則の特定の規定を準用するに過ぎないのであり(同法八三条)、両者は截然と区別されているから、占用の許否につき事務次官通達1項により異なった取扱いをすることが平等原則に反するものではなく、また、その後右グラウンドの占用が排除されていることに照らせば、これをもって不合理な差別とはいえない。

(四)  結局、本件(12)処分には、原告の主張するような憲法一四条に反する合理性を欠く差別はなく、したがって、この点に関する原告の主張には理由がない。

四  本件(12)処分に、憲法二九条一項、三項に反する違法があるか(争点4)。

原告は、本件(12)処分について、本件不許可処分は、継続した占用許可に対する取消処分ないしそれに準ずるものであるから、私法上の財産権たる性格を有する本件土地の占用許可処分に基づく使用権を侵害するとして、憲法二九条一項、三項に反すると主張する。

しかしながら、既に判示したとおり(一1)、原告の占用許可処分に基づく使用権は、期間の満了した昭和五一年三月三一日をもって当然に消滅したと解されるから、消滅後にされた本件(12)処分はなんら原告の財産権を侵害するものではない。

なお、原告は、参加人が都市計画法に基づき、本件土地の使用権を権利収容手続により消滅させるべきであるところ、本件不許可処分により目的を達成することは脱法的手段を用いたことになると主張するが、河川敷地は、河川の利水の面からは、公共用物として本来一般公衆の自由な使用に供されるべきであるから、河川管理者である被告が、占用許可申請に対して、一般公衆の使用を増進する参加人の公園緑地事業の存在を考慮して、本件不許可処分をしたとしても、何ら脱法的なものであるとはいえない。

したがって、この点に関する原告の主張も理由がない。

五  本件(12)処分に、裁量権の範囲の逸脱ないし濫用があるか(争点5)。

1  事実評価の誤りについて

原告は、原告の事業の公益性・公共性の存否及び程度を充分考慮するこるとなく本件不許可処分がされたと主張する。

確かに、原告の事業は、原告の実施した技能検定の合格者には公安委員会の技能試験が免除されるという点からみれば、自動車運転免許事務の一部を担うものであり、その限りで公益に関わり、公共的性格を有する。そして、それゆえ、公安委員会の指導等を受けるのである。

しかしながら、右の点と原告がその他の講習、教習、指導等を行っていることとをあわせて公益性・公共性を考慮してみても、原告の事業の中心となる対象者はあくまで自動車運転免許の取得を希望する者であり、また、原告の事業は河川敷地でなくとも営むことができることに照らせば、本来一般公衆の自由な使用に供されるべきである河川敷地については、一般公衆の使用を増進し、緊急時の避難路としての効用をも期待した計画を立てている参加人の公園緑地事業に基づく公園整備の方がより公益に資するものであり、公共性が高いといわざるを得ない。

そうすると、原告が、本件不許可処分をするにあたって、原告の事業の公益性・公共性の存否及び程度を充分考慮していないとの主張には理由がない。

2  比例原則違反について

原告は、被告の予定する河川工事は原告の本件土地の使用と調和を図りつつ施行することが容易であったのに、右工事のために原告の使用を排除するまでの必要性はなかったとして、本件不許可処分は必要最小限度の範囲を逸脱するもので比例原則に反すると主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、低水路掘削・護岸工事と高水敷掘削・整正工事の必要性は高く、これらの工事を原告の主張するように分離して行うことも不可能ではないが、本件土地においてこれをするには、工事用地の確保から著しく困難であり、分離工事をすれば費用が約二割増加すること、既に本件土地付近の河川敷地は公園化されており、原告に代替地の占用を認めつつ、河川改修工事を行うことは不可能であること、本件土地を含む豊平川の河川敷地は公園化されて、一体として利用される予定であること等の事実に照らせば、被告は原告の本件土地の使用を排除する必要があったと認められる。

そうすると、本件(12)処分が比例原則に反するとの主張には理由がない。

3  平等原則違反について

この点については、既に判示したとおりであるが(三)、原告が主張する他の河川敷地の使用状況については、本件全証拠によっても、いずれも本件土地のように、河川工事及び都市計画緑地の指定に基づく公園整備に直ちに着手しうるような河川敷地を使用しているものと認めるに足りないから、原告と比較して平等か否かを検討する前提条件を欠いている。

そうすると、本件(12)処分が平等原則に反するとの主張には理由がない。

4  不公平な裁量基準と解釈適用の誤りについて

原告は、本件不許可処分をするにあたり裁量基準とされた局長通達が自動車練習場を占用許可の対象から排除するのは不公平であり、事務次官通達及び許可準則の解釈適用にあたり公正を欠いたと主張する。

(一) もともと、河川敷地は、河川の治水の側面からは、洪水による被害を除却・軽減させるものであり、河川の利水の側面からは、公共用物として本来一般公衆の自由な使用に供されるべきものであって、原則として、特定人に対する排他的な使用を認めるべきではない。そして、その占用は、一般公衆の使用を増進する場合、一般公衆の利用は妨げられるが河川の流水によって生ずる公共の利益を増進するために必要な場合、河川を離れた社会経済上の必要性に基づいて河川としては受け入れざるを得ない場合等に占用の必要性が例外的に認められるに過ぎない。

したがって、被告が、河川法二四条に基づく河川敷地の占用許可を求められたときには、まず、河川の利水及び治水の両側面における右の諸点を充分考慮しながら、占用の目的・態様からその必要性の存否及び程度を検討して、占用の当否を判断し、占用を認めるにあたっては、その目的に必要な最小限度の範囲で認めるべきである。そうすると、事務次官通達及び許可準則の内容はいずれも右の点に充分配慮した合理性を有するものである。

したがって、占用を許可するか否かを決するにあたっては、このような観点から、事務次官通達及び許可準則は解釈適用すべきことになるが、本件全証拠によっても、本件不許可処分をするにあたり、被告により右観点を顧みることなく不公正に解釈適用されたとの事実を認めるに足りない。

(二) 次に、局長通達においては、自動車練習場のためにする占用は許可しないことを前提とする定めを置いているので(第二、一4(一))、これを検討する。

まず、自動車練習場は、既に判示したとおり、自動車免許の取得を希望する者を対象としており、もともと一般公衆の自由な使用に供すべき河川敷地の性格と相いれないものである。

また、指定自動車教習所の練習コースにあっては、公安委員会から指定を受けるために、高さが一・五メートル以上あること等の要件を満たす坂道コースを設けねばならず(三2(一)(2))、これは許可準則の第五において要求される、土地の形状変更につき、「現在の平均地盤高より〇・五メートル以内として、流水に対し平滑であること。」に反する。

ところで、許可準則が土地の形状変更につき右のように定めているのは、右要件を超える高さを有する突起物があると、洪水の際、河川の水の流れが乱れて、低水路の川岸の洗掘や浸食を助長し、堤防の洗掘をも助長する可能性が認められて、治水上の障害となるからである。

そうすると、高さ、一・五メートル以上の坂道コースを設置しなければならない指定教習所を占用許可の対象から排除することには合理性がある。

以上のとおりであるから、原告の右主張にはいずれも理由がない。

5  裁量判断の方法ないし過程の違法について

(一) 原告は、被告が本件不許可処分をするにあたり、参加人が本件土地を都市公園緑地として利用することを考慮したことをもって、他事考慮の違法があったと主張する。

国は、河川の管理にあたっては、洪水等による災害の発生が防止され、河川が適正に耕用され、流水の正常な機能が維持されるようにこれを総合的に管理しなければならず(河川法一条)、他方、都市計画の適切な遂行にも努めねばならない(都市計画法三条一項)。

ところで、河川敷地は、もともと一般公衆の自由な使用に供すべきであるが、公園、広場等のように一般公衆の使用を増進する場合には高い公共性が認められることから例外的に占用を認めうるのであり、これを受けて事務次官通達2項も河川管理者に公共性の高い事業の円滑な実施を求めているのである。

したがって、国の機関である被告が、本件土地の占用の許否を決するにあたり、参加人の実施する都市計画緑地事業の用に供することができるように考慮することは当然であって、これをもって他事考慮の違法があったとする主張には理由がない。

(二) 次に、原告は、原告の事業の公益性・公共性を考慮することなく、都市公園緑地としての利用を加重評価したとして、違法であると主張するが、前記1のとおり、この点の原告の主張には理由がない。

(三) 原告は、本件不許可処分をする際、右処分により原告の従業員とその家族の生活に与える影響の重大性を考慮すべきであったのに、考慮していない違法があると主張する。

しかしながら、原告は、その事業を遂行していくにあたり、河川敷地を使用していたのであるから、占用許可が得られなくなった場合の原告の事業展開等につき検討し、明渡しに備えるべきであったのであり、特に、昭和四八年九月二七日付けの文書で昭和五〇年三月三一日以降の占用が困難であるとの通告を受けた後は、明渡しについての具体的検討が可能であり、十分明渡しの準備期間も与えられていたのである。

そうすると、被告が、これを考慮することなく本件不許可処分をした点に違法はなく、原告の右主張は理由がない。

(四) 原告は、本件不許可処分をする際、衆議院地方行政委員会のした付帯決議を考慮しなかった違法があると主張する。

しかしながら、右付帯決議には被告に対する法的拘束力はないのであって、これを考慮することなく本件不許可処分をしたとしても違法ではなく、原告の右主張は理由がない。

したがって、本件(12)処分に裁量権の範囲の逸脱ないし濫用があるとの原告の主張には全て理由がない。

六  本件除却処分に取り消すに足りる違法があるか。

原告は、取り消しうべき違法のある本件各処分を前提とする本件除却処分も違法であると主張して、その取り消しを求めている。

しかしながら、前に判示したとおり、原告の本件土地の占用許可処分に基づく使用権は、占用許可期間の満了により消滅したのであり、前記二ないし五のとおり、本件(12)処分には原告の主張する違法は認められない。

そうすると、本件除却処分により原告が除却するように求められている練習コース等は、本件土地上に河川法二四条の占用許可処分を受けることなく存していることになるから、本件除却処分は同法七五条一項一号に基づく適法な処分である。

七  以上のとおり、被告のした本件(12)処分及び本件除却処分には、いずれも原告の主張する違法はなく、本件(12)処分は被告の河川改修工事及び参加人による都市計画緑地事業の必要性、合理性を考慮してされた適法な処分であり、本件除却処分も右六のとおり適法な処分である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大澤巖 裁判官 永井裕之 柴田厚司)

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